立ち退き料を提示されても立ち退かなくてよい場合|請求が認められなかった裁判例57件の傾向

立ち退き料の提示があっても立ち退き請求が認められなかった裁判例|店舗・事業用物件を中心に解説します

立退料を提示されると出て行かなければならないと思いがちです。
また、多くの法律事務所は立退料交渉を主として取り扱っています。

しかしながら、立退料は万能ではありません。
横浜平和法律事務所の弁護士田村一浩の整理では、店舗・事業用物件の裁判例145件のうち57件が立退料の提示があっても明渡請求を棄却しています。

本記事では、立退料の提示があっても明渡請求を棄却した裁判例57件の傾向と賃借人側としてどのように対応すべきかにつき解説します。

立退料は「正当事由」を補完するものにすぎません

法律上立退料の提供が問題になるのは、借地借家法における「更新拒絶」・「解約申入れ」の事案に限られます(借地借家法28条)。
法律上立退料を受け取れる可能性のある大家都合の明渡請求については、【貸主から更新拒絶・解約申入れを受けた方へ 立ち退かなくてもよい可能性と立退料の考え方】で解説していますので興味のある方はご覧ください。

「更新拒絶」・「解約申入れ」が認められるためには、法律上「正当事由」が必要とされており、その「正当事由」は賃貸人・賃借人が建物の使用を必要とする事情を基本的な考慮要素とし、それ以外の立退料の提供等の事情はこれを補完するものにすぎないとしています(借地借家法28条)。

立退料の提供があったとしてもそれ自体からすぐに立ち退かなければならないわけではないということです。
そのような意味から立退料は「正当事由」を補完するものにすぎません。

立退料の提供があっても賃貸人の請求を認めなかった裁判例の分類

それでは、実際に立退料の提供があっても賃貸人の請求を認めなかった裁判例57件のうち一部を紹介します。

立退料では正当事由を補完できなかったケース

賃貸人側の必要性が低い事案

⑴東京地裁令和6年9月12日判決
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裁判所日付物件種別平米数賃料等月額賃貸人側の理由提示立退料額ポイント
東京地裁R6.9.12飲食店118㎡81万4000円自己使用2510万円賃貸人の自己使用の必要性が認められない。

東京地裁令和6年9月12日判決は、賃貸人が社員食堂兼料亭を運営することを目的に、立退料2510万円の提示をして、賃借人側に立退きを求めた事案です。
裁判所は、賃貸人の自己使用目的の必要性は認められないか、認められるとしてもその必要性高いとはいえない反面で、賃借人が移転しなければならないとなると飲食店経営に重大な影響を及ぼすとして、立退料2510万円の提示があったとしても「正当事由」は認められないと判断しました。

⑵東京地裁令和6年6月7日判決
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裁判所日付物件種別平米数賃料等月額賃貸人側の理由提示立退料額ポイント
東京地裁R6.6.7シーシャカフェ74.10㎡54万7350円有利転売目的3000万円賃借人を追い出して高値で転売する目的と認定し必要性を認めない。

東京地裁令和6年6月7日判決は、賃貸人の目的は賃借人を追い出して建物を高値で売却することにあると考えるのが自然であるとしたうえで、賃貸人が賃借人が存在することを前提に建物を購入してすぐに明渡請求していることを踏まえて、賃貸人には建物使用の必要性は認められない又は非常に低いとし、立退料3000万円の提示があったとしても、賃貸人の建物使用の必要性の低さからして正当事由が補完されることはないと判断しました。

借主側の使用継続の必要性が強い事案

東京地裁令和4年11月28日判決
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裁判所日付物件種別平米数賃料等月額賃貸人側の理由提示立退料額ポイント
東京地裁R4.11.28タクシー洗車59.65㎡26万2500円建替え・有効利用1825万円賃借人は10程度の店舗を経営しているが本店舗の売上が全体の半分を超えており、営業できなくなると賃借人の生計等に与える影響は大きい。

東京地裁令和4年11月28日判決は、賃貸人の建替え・有効利用を目的とする立退き請求に対し、賃借人は他に10件程度の店舗を有しているものの、当該店舗は全体の売上の半分を超える割合を占めており、当該店舗の営業を継続できないとなると賃借人の生計等に与える影響は大きいこと、代替物件となり得る物件を探すことは相当の困難を要するものになるとして、立退料1825万円の提示があったとしても正当事由が補完されることはないと判断しました。

耐震・老朽化・建替えの必要性の立証が不十分な事案
⑴東京地裁平成28年5月12日判決
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裁判所日付物件種別平米数賃料等月額賃貸人側の理由提示立退料額ポイント
東京地裁H28.5.12飲食店23.58㎡6万円老朽化/耐震性能不足200万円老朽化や耐震強度の低下は認められるが、耐震強度不足や倒壊の危険性の程度・建替工事の工事内容及び資金計画の具体性がない。

東京地裁平成28年5月12日判決は、賃貸人の老朽化/耐震性能不足を理由とする立退き請求に対し、確かに建物の老朽化や十分な耐震強度を備えていない可能性が相当程度認められるが、賃貸人が指摘する耐震基準は、本件建物が建築された当時は存しなかったもので、これに適合しないことのみで建替えの必要性が肯定されるものではないというべきとしたうえで、これら老朽化や耐震性能不足の裏付ける具体的な証拠はなく、また建替え工事の工事内容及び資金計画にも具体性がないとして、正当事由は認められないと判断しました。

⑵東京地裁平成28年8月4日判決

東京地裁平成28年8月4日判決は、借地借家法28条に基づく「更新拒絶・解約申入れ」の事案ではありませんが、耐震性調査の結果ビルが倒壊する危険性があることが明らかになったことが約定の解除事由に該当するとの賃貸人の主張に対し、「そもそも,どの程度の規模の地震が,いつ,どこで起きるかは,将来の予測に関する事項であって,問題となっている建物が,地震の結果,倒壊し,又は崩壊するか否かも将来の可能性の問題であることは当裁判所に顕著な事実である。」等として、立退き請求を認めない判断をしました。

提示された立退料が不十分だったケース

東京地裁令和3年8月12日判決
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裁判所日付物件種別平米数賃料等月額賃貸人側の理由提示立退料額ポイント
東京地裁R3.8.12居酒屋158.67㎡約100万円耐震性能不足2947万円賃貸人申出額は2947万円であるが裁判所鑑定では5510万円。

東京地裁令和3年8月12日判決は、賃貸人申出額は2947万円であるが裁判所鑑定は5510万円であるから立退料5510万円の提供がなければ明渡請求は認められないと判断しました。

立退料の提示があっても立ち退かなくてよい可能性はある

このように立退料の提示があったとしても、更新拒絶・解約申入れが認められないケースは存在します。
もっとも、多くの裁判例は、相当な立退料額が提供されるのであれば立退きを認容しています。

裁判例でも考え方が固まっていない部分になりますので、更新拒絶・解約申入れを受けてご不安な方は、ご自身のケースではどうなるのかにつき一度弁護士に相談するのが良いでしょう。

立退料を提示されたが、立ち退きたくないときは弁護士に相談を

横浜平和法律事務所では、店舗・事業用物件の更新拒絶/解約申入れを受けた案件に注力しています。
更新拒絶や解約申入れを受けても、ただちに立ち退かなければならないとは限りません。
とくに店舗・事業用物件では、営業への影響や移転費用を踏まえた慎重な対応が必要です。
横浜平和法律事務所が、
店舗・事業用物件の立退交渉に注力する理由
またその強みについては横浜平和法律事務所が店舗・事業用物件の立退料に注力する理由・強みの記載しましたので是非ご覧ください。

わたしたちが
店舗物件の立退きに注力する理由

それは、鮨屋の大将からの相談でした。

担当弁護士のご紹介

横浜平和法律事務所
弁護士 田村一浩(神奈川県弁護士会所属)

平成30年 予備試験合格
令和 元年 大学卒業
令和 元年 司法試験合格
令和 2年 最高裁判所司法研修所
令和 2年 当事務所 入所
令和 8年 当事務所 パートナー